- 〒231-8682 神奈川県横浜市中区新山下3丁目12番1号
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多彩な顔を持つ横浜港湾地区で地域救急医療を支える
異国情緒あふれる洋館、中華街、みなとみらいなどの観光スポットが立ち並ぶ傍らには、1万人近くにおよぶ日雇い労働者たちの宿がひしめきあう、そんな多彩な顔を持つ横浜港湾地区に2005年、当院は開院しました。2009年に指定をうけた救命救急センターは、救急車のたらい回しが大きな問題となっている我が国の都市部において、「救急車の要請を断らない」ことを基本理念に、横浜市のみならず神奈川県東部地域からの救急車要請を、24時間365日受け入れ続けています。2011年度、2012年度の年間救急車受け入れ台数は約12,000台であり(2012年度要請断り率2.6%)、文字通り地域の救急医療を支えています。
救命ICUと院内ICUを統合したGeneral ICUでon-demand方式の患者管理方法を実現

病床数634床の当院は、重症患者管理部門としてGeneral ICU6床(救命4床、院内2床)、CCU6床(救命4床、院内2床)、HCU4床を有し、「救命ICU」と「院内ICU」を同じ場所、同じスタッフで管理しているのが特徴です。General ICU入室患者は、内科系疾患が50%以上、緊急入室が約80%と多く、原因疾患がきわめてバラエティーに富むことが特徴です。2011年度のGeneral ICU入室は553名(うち緊急入室82%)、平均在室日数3.5日、平均APACHEⅡスコア20.9、死亡退院8.3%でした。
ICUにおける患者管理は、おそらく全国でも珍しいon-demand方式を採用しています。すなわち、各診療科にはICU入室の時点で、すべての管理を集中治療医に委ねるか一部の管理を委ねるかを、症例毎に選択してもらっています。各診療科が得意とする分野をできる限り尊重しつつ、あまり得意としない多臓器不全、ショック、ARDSなどの管理を徹底的に集中治療医がサポートすることで、各診療科との連携は非常に良好です。気管切開、非侵襲的陽圧換気を含めた人工呼吸管理は、原則的にすべて集中治療医が行っています。結果として、敗血症性ショック、心停止蘇生後、多発外傷、多臓器不全症候群などの重症度の高い症例を中心に、General ICUに入室する約4割の症例を、完全に集中治療医が主治医となって管理します。(図1)
私達は、いわゆるclosed ICUシステムに固執することなく、縦割りの診療科の弱点を補完して総力を結集したこのon-demand方式により、集中治療における最も重要なアウトカムである「死亡率」を最大限に改善することが出来ると信じています。
当院集中治療部の目標と行動原則
「急性期総合病院におけるインテンシビストの存在意義」をつねに意識しながら、次の目標と行動原則を掲げています。
<目標> | <行動原則> |
---|---|
1.重症患者の転帰改善 2.国際的に通用するインテンシビストの育成 3.スタッフ(レジデント、看護師等)教育 4.病院経営への貢献(病床管理、コスト管理等) 5.安全・危機管理 6.集中治療に関わる情報発信 |
1.つねに患者の利益を念頭において行動しよう 2.他科の医師、他職種の職員とのコミュニケーションを上手に行おう 3.患者・家族への説明を怠らないようにしよう |
集中治療医をリーダーとした多職種チーム医療の実践
当院のICUでは、2013年1月の時点で常勤医師6名(うち集中治療専門医2名)、後期レジデント2名が専任医師としてICUに常駐しています。スタッフのサブスペシャリティは麻酔、救急、内科と様々ですが、それぞれのサブスペシャリティに関わらず、共通の到達目標を持つ、世界に通用するインテンシビストを育成することを目指しています。常に現時点でのエビデンスに基づく治療を原則とする一方、未だ議論の余地がある領域に関しては、先進的治療を行い自分達からエビデンスを発信することを妨げていません。若手医師は、その自由度の中で患者から多くのことを学び、優れた臨床医としての知識とカンを身につけていきます。
「男女平等な職場」もまた当院ICUの魅力の一つであり、常に複数の女性医師が集中治療に従事しています。女性医師は、妊娠、出産、育児などのライフイベントと仕事のバランスをいかに取るかが、医師としての職業を継続できるかどうかの鍵となります。常勤医の1名は今年度育児休暇から復帰したばかりであり、当直免除に加え時短制度を利用しています。女性医師に関わらず、個々のやる気を尊重したフレキシブルな勤務体制の提供が、集中治療に携わりたい医師のキャリア継続を可能としています。
集中治療部門には、複数の重症集中ケア認定看護師を含む50名以上の看護師が働いており、集中治療部医師との間で毎日治療方針や家族対応などの情報共有を行っています。多忙時にも救急車の受け入れ同様、「ICUベッド満床のため患者受け入れ不能」ということはありません。ICU専従の薬剤師も存在し、臨床工学技士、栄養課スタッフらとともに多職種の回診に参加しています。また、リハビリ科との連携により、ICU入室後早期からのリハビリテーション開始を心がけています。
救急部と集中治療部のコラボレーション
救急部と集中治療部が日常業務をシェアしお互いに補い合っていることが、当院救命救急センターの大きな特徴です。2006年、現在の救急部長と集中治療部長は、たった2人のチームを組み「救急車を断らない」という理念を掲げてERとICUの運営を行ってきました。このER型救急の理念を実現するためには、他科との連携や病院全体のバックアップが必須であり、決して平坦な道ではありませんでした。病態が複数の臓器にまたがる重症患者に対しては、積極的にICUに受け入れて各診療科に出来る限りのサポートを行うことで、他科との良好な関係を構築してきました。豊富な症例数、オンオフに配慮した勤務体制は好循環をもたらし、2人で始めたチームは2012年度には常勤12名(うち集中治療部6名)、後期レジデント4名(うち集中治療部レジデント3名)にまで増加しました。2008年度からICU当直系列をおき、2011年度からさらにER当直系列を加えたことで、24時間質の高い救急医療・集中治療を提供できる体制を整えています。また2012年度からは、開院当初から行ってきた院内急変患者に対応するコードブルーシステムを大幅に改善し、ERやICUにとどまらない院内全体をカバーする重要な役割を担っています。
日々の診療風景
•8:30—9:00:多職種によるICU回診
主治医、救命救急センター医師、麻酔科医師、脳神経外科部長、リーダー看護師、臨床工学技士、薬剤師、栄養課職員などが参加し、新規入室患者のプレゼンテーション、すでに入室している患者の大まかな病態サマリーと方針決定、手術室からの定時入室予定患者の確認などが行われます。
•9:00−9:30:病棟回診
救急部・集中治療部医師で、救急病棟、一般病棟の受け持ち患者の回診を行います。
•9:30−10:30:ICU/HCU患者カンファレンス
集中治療部インチャージ医師をリーダーとして、集中治療部医師全員でICU、HCU患者の細かい治療方針を決めていきます。
•13:00—14:00:カルテ回診
救急部・集中治療部医師と薬剤師で、電子カルテによる担当患者全員の画像診断・検査結果・投薬内容等のカンファレンスを行います。
•17:00—:病棟回診
当直医をリーダーとして、救急部・集中治療部医師によるICU、HCUおよび一般病棟受け持ち患者の回診を行います。
教育・学術活動
当院救命救急センターの教育活動は活発です。2年目レジデントの多くは選択科で「集中治療」を選択し、年間を通じて2年目レジデント・後期レジデントがほぼ常時ICUに存在するため、屋根瓦方式の集中治療研修が行える体制となっています。それぞれの学年と研修スタイルに応じた具体的な到達目標を設定することで、自らの研修効果が確認できるようにしており、もちろん集中治療専門医研修施設にもなっています。
•英文誌抄読会:週1回
•ICU・ER症例検討会:月1回
•救命救急センター・臨床工学技士合同ハンズオンセミナー:2ヶ月に1回
•クリニカルクエスチョンに対するミニレクチャー:適宜
•ERフィードバックセミナー:月1回(2症例)
•モーニングセミナー:年間10回以上のセミナーを救命救急センターが担当しています。
•M&Mカンファレンス:数多く参加し発言しています。
•CPC(臨床病理カンファレンス):ICU症例から年間1−2例
学会発表・学術論文作成等の情報発信を積極的に行っていることも大きな特徴です。ローテートしたレジデント全員に、救急・集中治療領域の何らかの学会発表の機会を与えています。多施設共同研究に参加するのみならず、私達が自ら複数の研究の企画も行っています。2011年度の救命救急センターの実績を下記に示します。
•学会発表:38件(うち国際学会2件)
•学術論文:10本(うち英文誌1本)
•著書:9本
•多施設共同研究:2件(うち国際研究1件)
おわりに
困っている救急患者や重症患者、さらには困っている医師に対しても、シンプルにすべてを受け入れる私達のスタイルは、誰にもわかりやすくやりがいも得られる仕事です。また、抄読会で確認したエビデンスを翌日すぐに臨床応用できるという、バラエティーに富んだ豊富な症例数が、私達を支える大きな推進力となっていることは間違いありません。これらの臨床業務で経験を蓄積するにとどまらず、これらを深く掘り下げて皆で学び、さらに情報を外部に発信する作業により、いかなる施設でも通用するインテンシビストが育成されるものと信じています。