- 〒690-8506 島根県松江市母衣町200
- 0852-24-2111
- http://www.matsue.jrc.or.jp/department/35/index.html
集中治療科部長: 橋本 圭司(はしもと けいし) 集中治療科副部長: 濱田 孝光(はまだ たかみつ) 集中治療科医師: 飯塚 悠祐(いいづか ゆうすけ) |

島根の城下町から全国に発信するICU

松江赤十字病院が建つのは、宍道湖にほど近く、松江城のお濠に流れる堀川のほとりだ。かつて小泉八雲も愛した水の都には、大都市とは異なるゆったりとした時間が流れている。
ICUは1986年に開設された。診療科としての集中治療科が再編成されたのは、2009年4月のことである。2010年3月に病院が新築となり、それまでの5床から、CCU5床およびICU8床から成る13床のICU・CCUとなった。CCUは基本的に循環器内科の医師が担当するが、フロアをとりまとめているのは3人の集中治療科医だ。
ICUの入室患者は年間約600人で、心臓血管外科・消化器外科・呼吸器外科・脳神経外科などの術後患者、内科系の院内急変患者、重症敗血症、ARDSなどの患者が対象となっている。救命救急センターからの入室も多く、ICU管理が適切と思われる多発外傷、重症熱傷などの患者を受け入れる。看護師はICU・CCUの区別なく患者を看ていて、全員が集中治療の高度な専門知識を持つスタッフだ。松江赤十字病院の集中治療科は麻酔科から派生しているが、ほぼすべてのICU業務は集中治療科医が担っている。長らく、専門医の資格を持つ集中治療医2人体制で24時間対応を支えてきたが、2011年1月からは若手医師1人が加わった。
都市部から離れた土地ではあるが、WEB上で最新の情報収集が可能な現在、松江赤十字病院ではEBMに基づく世界標準の治療が行われている。部長の橋本圭司氏は、JSEPTICのメーリングリスト上でも積極的にディスカッションに参加し、各地のICUとのネットワークを広げている。院内でも集中治療科への信頼は厚い。手術麻酔も担っているため、外科系医師との信頼関係が構築できており、自然と重症患者は集中治療科に集まるようになっている。ICUに患者が入室してからの他科との連携も非常によく、問題があればすぐに相談しあえる関係だ。他科の専門性を要するタイミングを、これまで的確に判断してきた積み重ねの結果ともいえるだろう。昨年病床数が増えたことで内科系からの患者受け入れも進み、集中治療科の早期介入により良好な治療結果に結びつくといった、よい循環が生まれてきている。
四季折々の松江を臨む病棟で、身近なベテランから学ぶ
新病棟4階に位置するICU・CCUには、窓から明るい日が差し込む。大きくとられた窓からは松江の春夏秋冬の移り変わりを目にすることもできる。手厚い看護体制を利用し、松江赤十字病院のICUでは、ときには患者の院内散歩も行っている。医師や看護師が思い立てば、時間をみつけ患者を病室の外へと誘い出す。最近では、15階の屋上につくられた使用開始前のヘリポートに患者を連れ出し、ベッドに横になったままで宍道湖や松江城を見渡してもらい、いい気分転換ができたと喜ばれたという。
ICUのフロア内に併設されたシャワールームも特徴的で、患者はストレッチャーごとシャワーを浴びることができる。たとえ人工呼吸器の管があったとしても、医師や看護師が付き添っての入浴なので心配はない。シャンプーやボディソープの香りに包まれてさっぱりすれば、患者や家族の気持ちも明るくなり、心地よい疲れでぐっすりと眠れる。病院とは、入院しているだけでも気分的に病を得かねない特殊な場所だ。それだけに、できるだけ早く患者が通常の生活に戻るための努力を、スタッフたちは惜しまない。毎日の挨拶を欠かさず、家族が24時間面会しやすい雰囲気をつくり、無機質でないICUの運営を心がけている。
集中治療医同士、顔を合わせばディスカッションが可能な環境であるため、特に時間を定めての申し送りは行われていない。治療方針についての話し合いはごく日常的に持たれていて、看護師からの問題提起についても、その都度現場で検討されている。系統立った集中治療の知識を得るには教育体制が不十分ともいえるが、ある程度麻酔科などでの経験を持つ若手医師にとっては、自由度が高く、やりがいのある職場といえるだろう。コンパクトな科であるために、ベテランの上級医も身近な存在で相談がしやすい。共に業務を行うことになる麻酔科にも若手が多く、緊張せずに仕事ができる環境だ。若手医師が際限なく仕事をすることは求められておらず、橋本氏をはじめとする麻酔科・集中治療科の部長・副部長も、緊急手術の麻酔当番などを均等に受け持っている。
松江赤十字病院ICUでは、他地域からの若手医師が加わることで、ICUに新たな風が送り込まれることを期待している。治療は世界水準でも、静かな城下町の面影を今に残す松江では、喧噪に煩わされることなく腰を据えて研修に取り組むことができるだろう。