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ICU専従医師主体のICUを実現

病床数1,075の東京慈恵医科大学附属病院(本院・東京都港区)は、集中治療部門として、ICU20床、CCU4床、PICU4床、NICU9床を有している。中央棟5階に位置するICUは、開設以来増床を重ね、2009年9月に現在の病床数となった。
慈恵医大ICUの歴史は古く、1968年には先駆的施設としてICU6床を開設。これを機に、麻酔科医の当直が始まっている。当時は、麻酔科医が行うのはベッドコントロールおよびコンサルテーションのみで、主治医が患者管理を行う、いわゆる一般的なopen ICU体制をとっていた。しかし、2006年4月、集中治療部が設置され、翌年からICU専従の医師による回診が始まった。それにより、主科との協力体制のもと、ICUの医師が主体となって患者管理を行うシステムとなり、密度の高い治療が行われている。年間の入院患者数は、病床数が9月までは12、それ以降に20となった2009年で約1560名、2010年には1800名を超え、今後さらに増えることが予想される。
入室患者は約90%を成人が占め、その平均年齢は65歳だ。また、65%以上が男性である。平均在室時間は20.8時間、死亡率は2.6%となっている。成人の81.3%が手術室からの入室であり、大手術後、あるいは合併症のある患者の術後症例が大半を占める。その他、病棟からの入室が8.8%、救急室からの入室が8.6%となっている。元来、外科系の術後症例を中心に管理してきた背景から、科目ごとの内訳を見ても、脳神経外科が30.2%、血管外科が14.4%、心臓外科が11.4%であるのに対し、内科系の占める割合は7.0%である。
現在の慈恵医大ICUは、専従の医師7名、麻酔科医6名をはじめとし、ローテートの初期研修医約1名、看護師約55名、専属の臨床工学技士1名、薬剤師1名(午前中のみ常駐)から構成されている。7名もの医師が専従であるICUは国内でも稀なうえ、そのうち5名は、現在数百名しか認定されていない、日本集中治療医学会認定の資格を持つ専門医だ。麻酔科からのローテーターは、後期研修1年目に1ヵ月、2年目に2ヵ月、3年目に4ヵ月のICU研修が義務づけられており、3年をかけて集中治療について学ぶ。今年4月からは、麻酔科の専門医取得後の医師が、集中治療医専門医資格取得のため、2年間のICU研修を開始している。
合同カンファレンス開催で、EBMを追求
慈恵医大ICU最大の特徴は、EBM実践のために合同カンファレンスを重視していることである。ICUの一日は、朝8時、当直医からの申し送りで始まる。続いて9時からの2時間が、主科との合同カンファレンスである。患者をもともと診ていた主科のスタッフを含め、すべてのICUスタッフが出席する、臨床的に最も重要なカンファレンスとなる。患者一人ひとりについて、経過を確認し、治療方針を決定する。同ICUでは、EBMに基づいた診療を常に心がけているが、さまざまな専門知識を持つ多くのスタッフが一人の患者について開かれた議論をすることで、患者にとって最善のEBMを導き出すのである。合同カンファレンスは日曜・祝日を除く毎日開催され、同時に教育の場ともなっている。
ここで決まった治療方針を実践に移すのが、10時半からのBedside Roundだ。12時を過ぎると術後の患者が入室してくるため、検査・処置・予定入室の受け入れを行い、18時からは2度目のBedside Roundで当直医への引き継ぎを行う。これら一日のスケジュールに加え、毎週火曜日には、朝7時から勉強会を行っている。Up To Dateや国際ガイドライン、大規模研究の論文などを教材に、毎回約20人のICUスタッフが学ぶ。
このほかにも、慈恵医大ICUの取り組みは数多い。実際の患者の経過を振り返り、意識・知識の共有を行うM&M(Morbidity & Mortality)カンファレンスや、システムエラー・医学的なエラーについてのリスク事例報告および検討会を定期的に開催している。また、これらを今後の診療に生かすべく、入室患者のデータベース作成にも余念がない。それぞれの医師の研究としては、コンピュータシステムの開発、患者のデータベースを用いた疫学調査、多施設参加型の臨床研究、シミュレーション教育についての研究などが進行中だ。
豊富な症例数やスタッフ、充実した設備はもとより、主体的なICU運営を行う、意欲あふれる教育者たちについて学べる慈恵医大ICUは、集中治療医を目指す医師にとって、これ以上望みようがないほど理想的な場といえるだろう。