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広島市立広島市民病院 麻酔・集中治療科

 

院内における麻酔科医の役割を拡大

広島市立広島市民病院ICUは、2009年10月、それまでの8床から10床へと増床された。これにより、病床数の制限のために受け入れられなかった、術後の重症患者や救急患者の受け入れが可能となり、入室症例も増加している。ICUは743床の同院の中央棟2階に位置し、12人のスタッフ(専従医)、および後期研修医と後期研修修了後の若手医師11人の計23人によって支えられている。年間のICU患者数は約650人で、うち約100人が小児患者と、小児の占める割合が大きいのが特徴である。入室患者全体の約7割が術後の患者で、その8割が心臓血管外科からの入室だ。小児も大部分が心臓血管外科の術後患者だが、そのほかに小児敗血症、先天性横隔膜ヘルニア、重症心筋炎、小児脳神経外科の術後患者を受け入れている。

ICUの主任部長を務める多田恵一氏は、救命救急センター長を兼任している。広島市民病院麻酔科の立ち上げから尽力してきたが、基礎疾患を持つ患者の全身管理を行う麻酔科医の知識や技術は、そのまま集中治療に生かせるとして、麻酔科医の臨床活動領域を広げてきた。その結果、院内では「重症患者はまず麻酔科へ」という流れが確立され、1994年のICU設立時から、集中治療を行う麻酔科医"麻酔・集中治療科医"による365日24時間体制の管理が行われている。そこからさらに院外救急への対応が始まり、救急部・救命救急センターの運営も主導的に担ってきた。麻酔科医による、麻酔、周術期管理、ICU、三次救急、疼痛治療の統括的管理が実現されているのだ。

現在の広島市民病院ICUでは、3人の集中治療専門医を含む専従の麻酔・集中治療科医が、外科の術後症例、内科の急性増悪症例、救急の三次救急症例における最重症患者すべてに対応している。もちろん、集中治療は単独の科では対応できず、各科の高い専門性も不可欠だ。そこで、臓器特異性の高い部分は各科の専門家に委ね、重要場面での最終決断は各科を束ねる麻酔科医が行うことによって、バランスのよい治療を行っている。


いつでも上級医に相談しやすい研修体制

このように、麻酔科を基盤としたICUを確立してきた同院麻酔・集中治療科では、若手医師が「横断的医学知識と経験」「確立した全身管理・専門能力」「多領域・多職種をシームレスに束ねる高いコミュニケーション能力」を身につけることが、良質な集中治療には必須だとして、独自の工夫を行っている。

集中治療・麻酔・救急の横断的研修として特徴的なのが、麻酔科医のチームがそれぞれを管理する体制がとられていることだ。麻酔・集中治療科の日勤は、ICU、手術室、救急・病棟の3ヵ所を、日替わりで満遍なく担当する。

ICUでの業務は指導医となるスタッフと後期研修医が必ずペアで行い、入室患者が発生した場合にはその2人が患者の担当医となる。後期研修医より上級医である場合が多い主治医とのコミュニケーションも、スタッフが主治医と話す様子を間近に見続けることで学んでいく。手術室ではスーパーバイザーとしてスタッフ1人が配置されていて、担当症例に関する相談が可能だ。年間6000例以上になる麻酔症例のうち、約1000例が小児症例であることも特徴だ。

当直は、当日の心臓血管外科手術の麻酔を担当したスタッフと後期研修医がペアになり、そこへ心臓血管外科の主治医が加わった3人体制となっている。心臓手術が終わるとICUで申し送りを行い、ICU業務を引き継ぐ。麻酔担当医が術中から術後まで、一連の全身管理を経験することができるうえ、その日のICU入室患者も診ることができるのだ。救急・病棟でもスタッフの指導の下、業務が行われており、いつでも指導医に相談のできる体制が整えられている。

カンファレンスは毎朝8時より、麻酔開始時間までの45分間行われる。麻酔・集中治療科の医師全員とICUおよび手術室看護師の代表が集まり、ICU入室症例、院内外からの救急依頼症例、当日の麻酔管理症例に伴うリスクについて検討する場で、各種ガイドラインやUp To Dateを参考に進行される。9時過ぎから看護師が行う回診には、ICUの日勤を担当する医師も参加する。朝のカンファレンス出席者が回診しながら説明を行い、そこへ医師が随時補足することで、看護師とのコミュニケーションを密にするねらいもある。

週2回は、対応に苦慮する症例などについての個別カンファレンスが行われるほか、30代の若手医師が中心となった勉強会も毎週開催されている。多施設共同研究への参加も複数あり、『ミラー麻酔科学』や『ハリソン内科学』の部分翻訳も担当した。2010年3月には第37回日本集中治療学会学術集会が、市中病院では初の会長となった多田氏のもと開催された。集中治療医を志し、「救急・集中治療を志す若者が麻酔科研修を行うことの必要性」(多田氏)を感じる初期研修修了者にとって、同院麻酔・集中治療科での経験は得がたいものになるだろう。

また、希望者には一定期間の研修後、ICU専従の研修も可能である。 施設見学は随時行っており、気軽に連絡を取ればいいようである。

藤中和三
waso-f@city-hosp.naka.hiroshima.jp
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